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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)924号 判決 1964年5月26日

帝国建設株式会社破産管財人

上告人

永田長円

上告人

山本卓一

被上告人

株式会社佐賀銀行

右代表者代表取締役

手塚文蔵

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人らの上告理由第四について。

新株発行の場合につき準用される商法一八九条二項の規定は、株式払込の取扱を銀行又は信託会社に限つて行なわせるものとし(商法一七五条二項一〇号、一七七条二項)、その委託を受けた銀行又は信託会社に払込金の保管証明の義務を負わせている同法一八九条一項等の諸規定とあいまつて、払込の確実と健全を期し、かつ、払込金を完全に会社に収受させる目的のために設けられた規定であることは明らかである。従つて、同条項によれば、銀行等は、いやしくも株式払込取扱機関として為すべきものとしての保管証明をした以上、真実は払込がなく又は返還に関する制限がある場合であつても、これをもつて会社に対抗することができず、その結果として、銀行等は、真実にその証明払込金額を、返還に関する制限なしに、保管しているものとして、その返還債務を負うことになるものと解するのが相当である。すなわち、法は、右の場合であつても、株式払込取扱委託契約に基づき真正に払込があつてこれを保管している場合と同一に取り扱おうとする趣旨であり、これは、前記の目的のために、禁反言の原則によるもの以上に強大な責任を、保管証明行為を原因として、銀行等に認めたものというべきである。そして銀行等が株式払込取扱委託契約に基づいて真正に払い込まれた払込金を会社に返還すべき債務は、商行為によつて生じた債務であることが明らかであるから、これと同一に取り扱われるべきものとしての商法一八九条二項に基づく銀行等の債務もまた、商行為によつて生じた債務であると解すべきこと当然である。

されば、右と同趣旨に出でた原判決は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は採用できない。

同第一乃至第三について。

所論第四が前記のとおり理由がなく、かつ、時効消滅についてした原審の認定判断にして肯認できる以上、所論第一乃至第三は、いずれも、ひつきよう、判決に影響を及ぼす法令違反の主張に当らないことになる。従つて、論旨はすべて採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官田中二郎 裁判官石坂修一 横田正俊 柏原語六)

上告人の上告理由

(第一〜第三省略)

第四、原判決は時効法規の適用を誤つた違法がある。

原判決はその理由(四)の(1)に於て「払込取扱の委託を受けた銀行のなす払込金の受入、保管、払戻は、銀行がその営業のためにする行為であり払込金の保管証明をなすことは、その営業に附随する行為(民法第六四五条参照)であつて、これについても銀行は善良な注意義務を怠らず証明の正確を期すべきは当然である(民法第六四四条)が商法第一八九条旧第三七〇条(現第二八〇条の一四)はこれらを前提として銀行に払込金保管についてその証明義務あることを法定し、この法定義務の履行として保管証明書が発行交付された以上たとえ払込金が全部もしくは一部存在せず、または返還制限の約定が存在する場合においても銀行は証明した払込保管金額について、その払込がないことまたは、その返還に関する制限をもつて会社に対抗することができないことを明定したものでいわゆる表示による禁反言ないし権利外観法理の一顕現というべきである。すなわち銀行は払込金保管証明書に記載されているとおり払込金を受け入れて保管していること、したがつてその返還債務があることになるのであるから右法条によつて銀行の負担する債務は商人である銀行がその営業上負担した払込金の返還債務の拡張したものであつて商行為による債務に外ならないと解すべきである」と判示して上告人等主張の民事時効の主張を排斥した。しかし乍ら

(一) 商法一八九条第二項は株式会社の株金払込の確実と会社成立の安固を期し所謂預合なる幣風を防止する目的で特に政策的見地より設けられた規定で払込金保管証明を為した銀行の責任は同条の法定する直接の責任で商行為により生したものでないのは勿論、営業に附随する行為でもないこのことは右保管金に対しては、利息を付せない事実によつても窺ひ得られるし又同条が政策的見地より設けられた趣旨よりするも時効期間を短期とすることは、その立法の趣旨にも反する結果となるであろう。加之銀行の為す株式払込金保管証明行為は単なる観念の通知(事実行為)であつて商行為という取引行為ではない。

従つてこれを商行為に生じたる債務として商事時効を適用した原判決は時効法規の適用を誤つた違法がある。

以 上

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